終わりよければすべてよし

ひとり親卒業日記

短編小説 そのニ

午前2時。 あまりにも遅すぎる。

貴美子は、娘の尚子から話を聞いて驚いた。尚子の勤めている会社はもともと右肩上がりで伸び続けていたが、このコロナ禍の中でなぜか一層需要が高まり、とどまる所を知らないといった勢いでますます伸び続けている。

それにしても、夕食も摂らずに午前2時まで残業があるなんて、いくらなんでもひどいと思った。実際、尚子は入社してから、もともとスリムだったのに5キロも痩せてしまった。もはや、ウエストは5号サイズのスカートでちょうどいいくらいだ。身長が165cmはあるのに、あまりにも細い。

貴美子は思った。自分はとんでもない会社を紹介してしまったのではないかと。

しかし、尚子は言う。このご時世、破産やリストラやボーナスカットの企業も増える中、業績が上向きなのはむしろありがたいと。それでも、固定残業制という給与形態では、普通なら上乗せになるような深夜残業手当がつくわけでもなく、翌日の出社を遅らせて辻褄を合わせる形だ。

せめて、食事休憩だけでもしっかりと取れるならいいが、とにかく人手不足でどうにもならないようだ。だいたい、厳しい時間体制ではなかなか人員も長続きはしないだろう。

尚子は言う。やっぱり、中高で厳しい部活を経験しているかどうかで、残業に耐えられるかも決まるんじゃないかと。

いやいや、母親の貴美子も中学から大学までずっと運動部に所属はしていたが、当時女性が認められていた午後9時までしか、残業はしたことがない。夜の外国人のお客さまの接待などはもちろん時間外で残業とはならないが、会社の接待費で今半などの高級店でお食事ができたことは、バブル期の恩恵を十分に受けありがたい限りだった。

つまり、適切な時間に食事も摂らずに働いた経験はないのだ。

先程、たまたま動画配信で以下のようなものを見つけた。つくづく尚子の大学生時代は、ごく普通に青春を謳歌できて良かったなと思う。今現在大学生や、これから受験をして大学生となる方たちに、一日も早い平和な日常が戻ることを願ってやまない。たとえそれが新しい日常の形でも、不安なく過ごせる毎日が訪れますように。

https://youtu.be/mbQT3c6fGEo